Filter
建築デザイン・コンペティション 入選  主催 建築知識
都市に建つ集合住宅である。
「片側廊下・片側バルコニー・各住居ブロック並列・壁式ラーメン構造」による集合住宅のビルディングタイプは、住居面積を効率よく確保でき、経済的、施工的にも合理性に優れている。
高密度の住居集積が望まれる都市では有効なビルディングタイプといえるだろう。
だが、限られた住居ブロック内におけるプランの画一化、単調となりがちな景観、集住する意義の不在など、負の面も多い。
そして、バリアフリーの観点からすると、画一的なプランでは多様なケース・住まい方に対処できない、家族以外の人々・社会との接点が希薄となりやすい、通風や採光といった環境面が優れない、等の問題が挙げられる。
「フィルター」は'空間'を 仕切り、つなげ、連続させ、感じさせ、創り出す装置である。
「フィルター」は半透明のロールスクリーンでできている。
2m×2mの平面グリッドに置かれた柱からは左右へ水平方向に、上部からは下へ垂直方向に「フィルター」が伸び縮みする。
プライバシーの必要性や'空間'の使い勝手に応じて、「フィルター」を一辺で三層まで調整することができる。
固定された、物質的にも強固な壁をはずし、フィルターを挿入する。
このしくみにより、従来型のビルディングタイプ内に、閉鎖感のない多様な'空間'を造り出せる。
ともに暮す人のアクティビティーを感じられる、家具・生活補助器具などの搬入や移動を簡易にする、歩行が不自由な人に対して容易な動線を確保する、扉なしでプライバシーを考慮した空間を創る、介護に必要なスペースを確保できる、など、バリアフリーの面から考えられる付加価値、相乗効果を得ることとなる。
そして、「フィルター」によって得られる純粋な光と風、'空間'の多様性は、住まう人すべてに対し快適な気分を付与してくれるものであると考えている。
ライフスタイルの変化に応えるには、不変的な要素(水廻り、キッチン、倉庫、寝室など)と、それ以外の変化のありえる要素を区別して整理することが望ましい。従来は不変的な要素をプラン上便宜な場所へ固定し、それ以外の可変性を工夫すればよかった。
だが、今回の住まい手は多趣味で客人を招くことが多く、家族構成の変化も予測しにくい。住まい手の要望が多様化・複雑化している現代、従来は不変的であった要素も含めて可変性を検討する必要がある。この提案では、必要となる要素をキャスター付のフレームに納め、自由な位置に移動できるようにした。その組合わせにより、自ら楽しみながら必要な空間をつくりだし、多様性に対応していくことだろう。